雨は雨でなくなって

ここ一年くらいは、波はありつつ、本当に前野健太さんの音楽ばかりを聴いている。
 
『鴨川』という曲。何て素晴らしいのか。


前野健太  鴨川 from 2nd album 「さみしいだけ」

 
前野健太さんといえば代表的な曲は、この『鴨川』や『友達じゃがまんできない』、『東京の空』辺りなのかなと思っていて、それだけじゃなく他にもよい曲が山ほどあるよ、というか良くない曲なんてない、という半ば狂信的なフアンなのだけど、それでもやはり鴨川は素晴らしい。自分の人生にテーマソングを一曲選ぶとしたらこれだと思っている。
MVで踊るこの女性が元セクシー女優さんというところもいい。そしてもっと良いのはこれを撮影した当時はまだ現役のセクシー女優さんで、多分今の自分の年齢と同じくらいというところであり、それから年月が経ってセクシー女優さんを引退して俳優・タレントさんとして活動し、そしてその後芸能活動自体も引退しているというところだ。
雨が川になりやがて海に変化する様を人間の変化になぞらえて描かれた鴨川の歌詞と、長澤つぐみさんの歩んでいった人生が交差して、この曲が何倍にも情感あふれるものになっている。彼女は今どうしているんだろう。ひとつの雨粒として、「長澤つぐみ」として、顔と名前を多くの人に知られ活動をしていた彼女も、今では大きな海の水の一滴となって、社会に溶け込んで穏やかに暮らしているといいなと勝手に思う。
 
セクシー女優、と言う職業に対する世間の捉え方も何だか昔とは変わっているような気がしている。昔はどちらかというと消極的な選択としての職業だと見られていたものが、近年では“積極的な選択”、“強固な意志”、“自信”、“決断”、“誇り”といった前向きなワードで取り巻かれているように思う。特に、自分と同じくらいの年齢の女優さん…湊莉玖さんや上原亜衣さん、松岡ちなさん、市川まさみさん、紗倉まなさんなんかが最盛期で活躍をしていたり引退などの転機を迎えていたりすると、感慨深いというか、本当に色んな苦労や苦悩があったのだろうなとしみじみとしてしまうし、性の対象にされる、女性としての性(さが)を前向きに取って体当たりに強く進む彼女たちを見ているといつも尊敬の念が湧いてくるのだ。ニンフォマニアックを観たときに得た感情に少し近いかも知れない。
 
前野さんに話を戻すと、先日彼がTV出演したときの『花のように鳥のように』の映像が奇跡的にアップされていた。一番を歌い終えて立ち上がり、椅子を蹴ってマイクの位置をぐっと変えるところが素晴らしく格好良くて、録画したものを何度も見ちゃう。ミュージックステーション紅白歌合戦ではなくて、演歌の番組に出演するところが良いし、彼に出演の話を持ち掛けた人は誰なんだろうと凄い気になる。
何を歌っても、〝前野健太の曲〟になる。自分も時々お遊びで好きな曲をカバーしてみたりすることがあるけれど、当たり前だけれど本当にただの「真似っこ」にしかならなくて、元の曲の素晴らしさがあって何とか成り立っている。でも前野さんが歌うと本当に何でも、モー娘。でも大江千里でもAKBでも細川たかしでも、前野健太の曲になってしまう。元の曲を知らなければカバーだとも気が付かないと思う。
以前ライブで歌ってくれた、ちあきなおみさんの『冬隣』がそれはそれは良かったので(女言葉や女の人の歌が前野さんにはよく似合うのだ)、演歌や歌謡曲のカバー集を是非とも出して頂きたいな。お願いしなくても出してくれそうな気配はするけれど。そして新しいアルバムもそろそろかなと、期待しているところ。
 
京都へは幾度が行ったことがあるけど鴨川は行ったことがないので行ってみたい。ゆっくりと散歩とかしたい。京都に限らず、観光地をセカセカと回って疲れる旅行じゃなく、違う土地で日常を送りたいみたいな気持ちがここのところ強いです。